先生のコラム

2015年度コラム

冷凍・冷蔵技術の進化

~「冷凍」について、ちょっとだけ考えてみようⅣ~

                                         宮城県水産高等学校 教諭 若松英治


 1855年、ジェームス・ハリソンによって世界で初めて冷凍機が開発され、1925年、クラレンス・バーズアイによって「急速冷凍」が開発されました。この急速冷凍とは、食品中の水分が凍る(と同時に食品組織の損傷が起こる)「-1℃あたりから-5℃の温度帯」を急速に通過させる方法で、現代においても冷凍技術の主流となっています。ただし、「急速冷凍」は、食品の表面に冷気を吹きつけることで食品中の水分を凍らせていきます。表面から冷気を吹き付けられることで表面から凍り、表面に氷ができ、内部へ向かおうとする冷気を遮るため、水が徐々に氷に変わり、氷が結晶化することによる体積の膨張により、多少なりとも食品の細胞膜に傷をつけてしまいます。このように急速冷凍は優れた技術ではあるものの、まったく問題がない技術であるとは言い切れません。

 

 そんな中、不可能と言われていた生クリームの冷凍を可能にする冷凍機が開発されました。そして、1995年、「過冷却」という物理現象に注目した新たな冷凍技術「CAS(キャス)急速冷凍機」が開発されました。肝となる「過冷却」とは、水なら0℃以下にしても凍らない状態が維持されていることを意味します。水が凍る時は、小さな氷のかけらや不純物を核にして、そこに水分子がくっついて氷が大きく成長します。逆に言えば、水を静かに冷やし、凍るための核となる氷のかけらや不純物が無い状態を作りだせば、水分子はくっつくことができず0℃以下に温度が下がっても液体のままを維持します。

株式会社アビーが開発したCAS冷凍機により、冷凍庫内に発生する磁場を使って食品内の水分子を振動させることで、過冷却状態をつくりだし、十分に温度が下がったら衝撃を与えて一気に「全体を凍らせる」ことができるようになりました。これは「革新的技術」と言っても過言ではないでしょう。

CAS冷凍機は、細胞膜を傷つけることなく「獲りたて、つくりたての“味”がCAS冷凍機によって長期保存できる」というものです。とれたての魚や野菜、肉、それらを加工した食品などの味を損なわずに長期保存ができることはもちろん、臓器移植などで医療現場でも利用されています。

 

 また、新たな冷蔵技術として、株式会社シゲンが開発した“海水を氷にする”シャーベット氷製氷機「LIQUID SNOW(リキッドスノー)」が注目されています。これまで、魚の鮮度を保つために、獲れた魚を箱詰めする際には、真水でつくった普通の真水氷を使用していました。この氷の温度は0℃で、氷が大きく角があるので、特に運搬中に傷がつきやすいという問題を抱えていました。さらに、氷の水分が魚に染み込んで味が変わってしまい商品価値を下げてしまうこと、マグロに使うと身焼け(水分が蒸発して変色する)が発生すること、しらす、きびなごなどの超小型魚は氷との接触面積が小さいため冷却に適さない、といった問題もありました。

ではリキッドスノーはどうかというと、海水でつくる(塩が混じっている)ため、温度がー1℃から―2℃と低く良く冷やすことができます。また、シャーベット状であるため氷の粒が細かく0.1mm~0.2mmと氷粒が小さいため、しらすなどの超小型魚との接触面積を大きくとることができますし、魚全体を覆うことができ、荷崩れもなく傷もつきません。さらに、浸透圧の関係で水の侵み込み魚の味が変わることもなく、マグロには身焼けはなく、商品価値をさげることはありません。

 

 CAS冷凍にせよ、リキッドスノーによる冷蔵にせよ、これまでの食品保存の常識が一変し、これらの技術によって、世界各地の食材が新鮮なまま食卓まで届けられる時代を迎えました。冷凍技術の革新は、奇しくも70年周期で起こっています。50年後、冷凍はどのように進化していくのでしょう?なんだか楽しみですね。

(次回、冷凍の最終回)つづく

 

参考:「TDKテクノマガジン」 「(株)アビーHP」 「(株)シゲンHP」 「KOfyの倍行く人生」