~「冷凍」について、ちょっとだけ考えてみようⅡ~
宮城県水産高等学校 教諭 若松英治
冷蔵庫も冷凍庫も無かった時代、魚や肉を「生」のまま保存することは難しいことでした。魚や肉に限らず、食品は常温で放置していると、化学反応、酵素の作用、微生物の増殖、水分蒸散によって品質低下が起きます。つまり、食品の品質低下を防ぎながら保存するということは、微生物による食品の腐敗や化学反応による栄養素・色・味・食感の変化から食品を守るということになります。とりわけ魚や貝類は、腐敗するのが速く(「足が速い」といいます)、冷蔵庫も冷凍庫もない時代の庶民は「生のままの新鮮な状態」で魚や貝を食べることはできませんでしたし、できたとしても夏場の氷はとてもとても高価なものでした(日本では「氷室」といって、冬場にできた氷を洞窟や地下室に保管し、夏に取り出して使うことがありましたが、これは長い間、朝廷や将軍家など一部の権力者のものでした)。
「食品の品質低下を防ぐ」という観点だけで言えば、缶詰などのような密封してから殺菌するという方法と、干物のように乾燥によって水分含量を低下させる方法、塩漬け、砂糖漬けなどの方法がありますが、どれも「加熱などによる変質」が避けられないため、食べる際に「生の状態に復元する」ということは不可能です。
そんな中、いまから約150年前の1855年、オーストラリアのジェームス・ハリソンによって、世界で初めて冷凍機が開発されました。この冷凍機は、「漁船でも利用」できるようになり、魚や貝の腐敗を防ぎ新鮮なままの状態で流通させることができるようになりました。そして、1864年以降、蒸気トロール漁船で利用されはじめた結果、氷詰めで輸送された新鮮なタラが、イギリスで安く出回るようになりました。
こうして、1860年代からロンドンとランカシャーで、タラのフライとポテトのフライが組み合わされた「フィッシュ&チップス」が売り出されると、瞬く間に爆発的に広まり、1870年代にはイギリスの他の地方でも労働者の間で広まり、新たなイギリスの食文化を生みました。
1864年の蒸気トロール船における冷凍機の利用から、「漁船と冷凍」は切っても切れない関係になっています。現在では、大西洋やインド洋などで獲れたマグロを遠く離れた日本で、生で食べることができますが、考えてみればこれは、ものスゴイことだと思いませんか?これを可能にする唯一の保存法が「冷凍」だということです。
冷凍機の発明は、他の分野にも様々な影響を与えることになります。また、冷凍技術も日々進化しています。それらも、また次回紹介したいと思います。
(冷凍について)つづく
参考:「ナポリタンはいつからあるの?」、「東京海洋大学 食品冷凍学研究室」